丸山重威 (関東学院大学教授)危機煽る事件、出来事

  平和のための報道を 中国でメディアを考えた

危機煽る事件、出来事

  平和のための報道を

 

中国でメディアを考えた

 

丸山 重威

 

 独禁法など日本と中国の経済法の研究会で、11月上旬北京を訪問した。「反日デモ」はほぼ鎮静し、ロシア大統領の北方領土訪問後で、尖閣ビデオ映像の流出が報じられた時期。当局に近い人にも会い、隣国との付き合いやメディアの役割や責任も考えさせられた。

 ▼

 私が見た数日間に限れば、現地の新聞やテレビには尖閣関連の報道はあまり見当たらず、ロシア大統領の北方領土訪問が大きく報じられていた。3日付「北京晩報」は国際面トップの米中間選挙に続き「北方領土」問題を取り上げ、4日付「北京青年報」は国際面トップでこの問題を歴史的にたどって解説した。

 尖閣問題について、ある日本研究者は「日本は尖閣を実効支配し、保安庁の船が付近に常駐していた。前原大臣はなぜいま事を荒立て、領土問題に火を付けたのか。沖縄の米軍基地問題のためだろう」と語り、「騒ぎを起こしたのは日本。中国は国民に冷静な行動を求めている」と強調した。

 もう古典になった「マスコミの自由に関する四理論」は、世界のマスコミ状況を、権威主義理論、自由主義理論、社会的責任理論、ソヴィエト全体主義理論に分けて解説した。しかしいま、自由主義国では政府や財界の圧力が強まり、社会主義国では、言論の自由が抑えきれなくなっている。

 事実を報じ、議論して方向を見つける、というメディアの役割は方法は違うが、民主主義を掲げる日本も中国も同じだ。

尖閣ビデオは恐らく、いずれ一般にも公開されるべきものだし、メディアは伝える責任がある。だが、それが世論を誤導し、国民の相互理解を妨げ、戦争や武力衝突を招くとすれば、そこには別の責任が生じてくる。

 だから、一概に「事実を伝えるのがメディアの仕事。世論の暴発を恐れて報道を抑えるのはもってのほか」と言ってすませられないし、「事実を隠して世論操作するのは問題。暴露は当然」とビデオを流出させた者を擁護してすむ話でもない。

 つまりこの問題は「戦争のために、ペン、カメラ、マイクを執らない。メディアは平和のために」という原則と「あくまでマスコミと言論の自由を守る」という原則の間でのせめぎ合いだ。

 メディアの役割と責任を考えるとき、13億の人口、56の民族、気候、風土が違い、風俗も習慣も多様な国をどうまとめるかに腐心する中国と、すぐ1つにまとまり、むしろ異論を許さない日本とでは違うのは当然だ。

 いま日本には、危機を煽り、米軍に頼るしかないという世論をつくるイデオロギー攻撃がかけられているのではないか。

 大切なのは、一つひとつの事件や出来事に惑わされず、日本の支配層、つまり米国や財界や政府にとって、それが何かを見極め、平和と民衆の立場から、広く世界を見ることではないだろうか。 (了)